小坪

特選情報

5. 七曲道

七曲道

ここは、お夏ぎつねの住んでいた場所です。

ここらへんの山は、住宅地として切り開かれる前はとても人の住むようなところではなく、淋しく深い山でした。そして小坪、名越の山にはキツネが多かったらしく、昔はキツネ火がよく出たそうです。

七曲道にはこんな話が残っています…

…むかし小坪の披露山には、たくさんのきつねが住んでいました。そのきつねの中で、とても頭のいい雌のきつねが一匹いました。人々はお夏ぎつね、といっていました。困ったことに時々小坪の人々をだますのです。

小坪の魚屋さんが披露山を通って逗子に魚を売りに行く時、よくだまされて魚を取られてしまうのです。昼も暗いような淋しい七曲道の道ですから、ちょっと休んでいる間に娘に化けて道を尋ねたり、魚の荷をかづぐ手伝いをしたりするのです。そしてすきをみて魚の箱から魚を取ってしまいます。

ところが小坪の魚屋の中で、私は一度もばかされたことがない、と自慢していた清エ門という人がいました。ある日魚を売りに行く途中、披露山道にさしかかりました。すると向こうから立派な白馬が走って来ました。清エ門は生まれつき馬が大好きでしたので、白い立派な馬を見て急いで追いかけました。白馬は走ってはとまり、走ってはとまり、とうとう見失ってしまいました。がっかりした清エ門はあきらめて、魚の置いてあるところに帰ってみると、驚いたことに魚は一匹もありませんでした。白馬を追っている間に、たくさんのきつねに食べられてしまったのです。

やがてこのお夏ぎつねは、久木に住む孫三郎きつねの所に、嫁入りをしました。嫁入りの日の夕方でした。七曲の道には、きつねの嫁入りを送るたくさんのきつねが火を持って集まりました。それがきつね火です。久木の方からも、それはきれいに、よく見えたそうです。

「鷺の浦風土記/石井清司 著」より抜粋